『コップとコッペパンとペン』、『美少女』……他。




有川浩『ストーリー・セラー』
小説新潮別冊『Story Seller』より。
Amazonのレビューで絶賛されていたので読んでみた。難しいことを考えると死期が早まるという症状を持つ女性作家とその夫の話。作家にとって致命的である症状に、しかし彼女はあえて抗うように、作品を書き続けていく……まさに比喩でよく使われる「命を削って」物語を紡ぐ懸命な姿がそこにはあり、またいつ死ぬかわからない恐怖もあり、かなり読ませる。
絶賛かと言われれば疑問だが(途中、彼女の家族との悶着があるのだが、そこがあってこそ現実的ではあったが話の軸がぶれたような気もした)確かに素敵な一編だったと思う。今まさに、有川浩が「アニメ・まんが的リアリズム」と「自然主義的リアリズム」を上手に掴み取っている作家なのかもしれない……と、考えた。新しいフィクションの形、見過ごせない形のひとつとして、きっと有川浩はこれからも支持されるに違いない。


福永信『コップとコッペパンとペン』
率直に言って、はじめて舞城王太郎を読んだときの感覚と似ていた。「小説って、こんなでもいいんだ!」というような気づきで溢れていたのだ。自分が捕らえている「小説」というフィールドがあるとして、そこでわーわー遊んでいたら、いきなり場外からものすごい速さでボールが投げこまれて直撃したような感じ。
「一行先が予測できない」という売り文句は、決して冗談でもなんでもなく、それはミステリー的な意味を内包しているわけでもない。面白い読書体験だが、読者はかなり選ぶことと思う。はっきり言ってストーリーは面白くないし、これを長文で読む気は起きないのだが、表題作『コップとコッペパンとペン』はすべての点で過不足がなく、名作であることは疑いようがない。
小説をそれなりに読んできている人ほど、この作品と出会ったときの衝撃は大きいだろうと思う。


吉行淳之介『美少女』
新潮文庫で新装版が出た。最近、吉行淳之介が再注目されているという話をどこかで耳にして嬉しくなった。
吉行淳之介が書いたエンターテイメント小説……その触れ込みだけで買わざるを得ないのだが、これがなかなか、さらりとした色気のあるミステリーに仕立ててある。しっかりと作者の味が生かされながら、読者を引き込む展開はさすがというところ。
こういうものが書けたらいいなぁー、という私の願望を、またしてもやられてしまったようなところがあって、頭を抱えることもしばしば。もし吉行淳之介が現代に生きていたら、どんな話を書くのだろう……猛烈に読んでみたい。だからこそ、その点で、私はまだ小説を書いていいということになる。がんばろう。


田中ロミオ人類は衰退しました』(3)
結末が衝撃的で、考えさせられる一作。この『人類は衰退しました』シリーズで(今のところ)最も涙腺にくる話だと思った。
途中、やや展開がだれるところやわかりにくいところはあったけれど、それを補って余りあるラスト。厚さを半分にして内容を凝縮してくれたら、もっと良いものになりそうな気がするのだが、どうか。そもそも、ライトノベルは分厚いものが多いような気がするのだが、なぜだろう。すぐに読み終わってしまってもいいから、良質なものを読みたいと願う。
余談だが、主人公たちが探索することになる古代の建造物は九龍城砦がモデルなのだろうか?そのような印象があった。私も今日、たまたま九龍城砦の存在を知ったばかりだったのだが、これはたしかに、ロマンチズムをくすぐられる存在である。