『ゴールデンスランバー』、『水没ピアノ』……他。




小説やエッセイは4月10日から、マンガは3月10日から読了したものを書く。
数がそれなりにあるので、ほとんど覚書のようになる。やはり、こういうものは少しずつ消化しなくてはいけない。という戒めを私はいつまで重ね続けるのだろう。うーん。



伊坂幸太郎ゴールデンスランバー
2008本屋大賞受賞作。
ケネディ暗殺事件を下敷きに、容疑者に「仕立てられた男」を軸に物語を展開させていく。一気読みさせる面白さを備えながらも、社会批判もしっかり混ぜ込んであって興奮した。万人に薦められる伊坂幸太郎の「よい仕事」だと思った。主人公に関わる登場人物たちが良い人ばかりなので素直に愛せてよいのだが、たまに度を越して「そこまでするか、ええっ?」となってしまった部分もあったのが、やや残念。


佐藤友哉水没ピアノ鏡創士がひきもどす犯罪』
文庫版帯のコピー「佐藤友哉の最高傑作!」に偽りなし。確かにこれは面白い。この面白さに先に出会っていたら、『1000の小説とバックベアード』や『世界の終わりの終わり』に不満を漏らす人がいるというのも頷ける。どうしちゃったの、どうしちゃったんだよ佐藤友哉!などと書いたり言ったりしてしまう気持ち、わかる。さて『水没ピアノ』、簡単に言ってしまえば叙述トリックモノなのだけれど、そこは彼らしい卑屈と沈殿の日々の結晶というべきエッセンスが盛り込まれており、実に愛らしい作品になっている。この『水没ピアノ』は佐藤友哉を語る上で外せないほどの強度を持っている(と、私などが書かなくても、佐藤友哉を追っている人はみんなそう思うのだろう)。
ただ、これを人に薦められるかといえば微妙。ぐたぐだとした語り部と文章に耐え切れなくなる可能性もあるだろうし、登場人物に腹が立って読めないだとかわけがわからなくなって嫌になるだとか、理由は色々と考えられる。かく言う私も、帯の「最高傑作!」と前評判に期待を込めてページを繰っていたところがあるので、それがなければやめていたかもしれない。やめなかっただろうけど。だから、我慢読書が出来ない人や慣れていない人に薦めるには、あなたが思う『水没ピアノ』の素敵な部分をしっかりアピールしたほうがよいと思う。なぜって、そのページが増すばかりの「どうでもいいようなこと」(「どうでもいいと思われること」)を重ねた結果が、妙なリアリティや空気を生み出していたことを、読了した者は知っているからだ。知らない人には「どうでもいいようなこと」は本当に「どうでもいい」ので、読むのをやめてしまうかもしれない。私はそれが不安である。


伊坂幸太郎『首折り男の周辺』
小説新潮別冊『Story Seller』より。
平行して走る3つの物語が次第に絡み合っていく様は、気持ちがよいし面白い。まったく巧い作品であると思う。中篇という制約を考えても、実にしっかりまとめたな、という感じがする。物語構成力が優れているのだろう。伊坂幸太郎が支持される理由が、少しずつわかってきた。もう少し、評判のよい『重力ピエロ』だとか『ラッシュライフ』だとかを読んでみるべきなのかもしれない。私にはきっと必要な要素が詰まっている、そんな気がするのだ。


佐藤友哉『333のテッペン』
こちらも『Story Seller』より。
決して面白くないわけではないが……消化不良なところはある。これを読むなら頑張って『水没ピアノ』を読破してもらいたいところ。本文中で「三流作家が二日で考えて十日で書いたようなストーリー、十年前ならいざ知らず、西暦二〇〇八年をむかえた今、なんの価値も無い。」と登場人物が独白するのだが、さて、これを笑って読むか同調するかは、読者次第。ちなみに私は、大笑いしたあとで、これは単なる自嘲芸だろうな、と思った。佐藤友哉がそこまで捨て鉢で物語を紡いでいるかと考えれば、なんとなく、なんとなくだけれど、そんなことは絶対ないと思うのである。


余談だが、『Story Seller』のAmazonコメントで、なぜか皆一様に有川浩『ストーリー・セラー』を絶賛しているので、読んでみようと思っている。


東浩紀ファントム、クォンタム−序章−』
あくまで序章と冠されている以上、あまり何かを言うことはできないのだけれど、少なくとも私は追い続けるだろう。SFとしてはおそらくいっそ古典的なストーリー(設定?)なんだろうけれど、私はSFに馴染みがないのもあり、問題は無い。ただ、文章にあるわずかな違い、言葉の運び方や選び方なのかもしれないが、時折「小説を読んでいる」のか「評論を読んでいる」のかわからなくなるときがあった。それは東浩紀が評論を書いているのを私が「知っていて」、かつそれを「読んだことがある」からそう感じるだけなのかもしれず、判断は付かない。つまりが、先入観や記憶というものは意外に厄介だ、というろくでもない結論を今の私は書こうとしているわけだが、それはさておき、いいじゃないですか東浩紀。次の章も楽しみにしています。でも、たまに「こういうネタ入れとくとブログとかでみんな、こう、さらっと書いてくれて面白がってくれるんじゃねーかなー」なんて思った(かどうかは定かではないですが)ように挟まれている設定や一文が気になることがあって、ちょっと心配。まぁ、私が心配しても仕方ないのですけれど。私はただ、物語を追うのみ。