椎名誠『全日本食えばわかる図鑑』




遠藤哲夫汁かけめし快食學』 の中で参照されている書籍が気になり、メモって細々と探している。大学近くの古本屋で椎名誠全日本食えばわかる図鑑』を見つけた。椎名誠は名前だけ知っていたが、うーん、こんなに面白いとは。肩の力が抜けた面白い文章って、簡単なように見えて、とても難しいと思う。私はとても、まだ書けそうにない。ともすると抜けすぎて支離滅裂になってしまったり、だらしなくなってしまったりする。ある種の名人芸な気もする。
こういうのは書き方はもちろんだけれど、やはり生き方によるのではないか、と。椎名誠という人がどういう考え方、ポリシーで生きているのかがにじみ出ていて、やはりエッセイというのは、気取ったり難しく考えたりするよりも、普段の感じたこと感じるものをそのまま照らし出していくのがよいのだろう。私ももっと「日常の延長としての文章」たるエッセイのついて、書くなら書くなりに、意識的にならなくてはいけない。
さて、特にこの『全日本食えばわかる図鑑』においては、全国の美味いものをグルメっぽく綴っているというわけではない。もちろん日本の何々に行って食べた何々が美味しかったなどとは書いているのだが、それが庶民派なものばかりなのである。椎名誠の舌と思想はあまりにも寛容で、それでいて自分の主義主張をしっかりと貫くだけの強さと面白さを持っている。
私たちが本当に「あぁ美味しいなぁ」と思うものは、実は日常の食卓の延長にあるものなのではないか、そんな風に思いながらこのエッセイを楽しく読んだ。
それと、「この世で一番うまいものは酔いざめの水だ」という意見には、苦笑いながらも頷いてしまった。