気孔の勉強に付き合う




駅の待合室にいたら、突然40代くらいの女性に声をかけられた。
「気孔の勉強をしている。気になる部位をやってみるので、ぜひ感想を聞かせてほしい」
という旨のことを言われた。甚だしく胡散臭いのだが、暇なので付き合ってみた。人間、心と時間に余裕があれば大抵のことは許せるものだ。
右足の付け根にかけてもらうことにした。私は座ったままでよいらしい。女性、傍らにしゃがみこむと、両手を広げて鳥が羽ばたくように手をばっさばっさと動かし始めた。端から見れば明らかに異様極まりないが、本人は至って真剣なので、私も真剣に付き合う。
世間話などしながら、施術は続く。手を握ったり開いたり、足に沿うように手を動かしたり、女性は忙しない。
……気のせいなのかもしれない。気のせいなのかもしれないのだが、右足がぴりぴりとしている。足の裏が微弱にしびれているような感覚がある。左足にはまったくない。これは、いや、もしやするともしやするのか?
一通りが終わったようで、女性が施術終了を告げた。足踏みしたり少し歩いてみると、どうした、なんだか右足の付け根の痛みが少なくなっているような……!
不思議なこともあるものだ。効果を告げると、女性は一仕事終えた顔で笑った。
「中国気孔ですか?」
尋ねると、
「いえ、生命の作用いいます。全国各地のお寺さんなんかでもね、学ぶことができるので……」 と、広報新聞のようなものを取り出す。なるほど勧誘タイムなわけだ。
「就職活動のせいで時間がないもので、すみません」
そこはひらりとかわし、とりあえず広報新聞だけはもらっておいた。女性は少し残念そうな顔をして去っていった。