愛染五郎『おとうといもうと』




以前のエントリー(中村九郎『樹海人魚』 - Hasex.net blog)でも書いたのだが、帯やコピーが内容にそぐわない・マッチしていないともやもやする。どれほどいい作品であっても、覚えてしまった違和感の分、もったいないような気持ちになるのだ。


『おとうといもうと』で見ると、帯の「キライなやつなのに、カラダの相性は抜群!?」は内容を全然反映していない。メインに登場する男女は嫌い合っているわけではないし、事実そのような葛藤が特別に出てくるわけではない。また裏表紙の一文「強烈なシスコンの拓と強烈なブラコンの楓はお互いを慰め合ううちに、身体を重ねてしまう。」とあるのだが、これも違う。「慰め合ううちに」どころか、半ば楓に押し切られる形で、一話目から即効で重ねてしまう。これではまるで、ある程度の時間経過があるようではないか。


類型的な文章を使えば読者には優しいかもしれないが、誤解を与えることにもなりかねない。これはマンガの売り文句に限ったことではなくて、大学生ならレポート課題や発表のレジュメ、仕事をすれば企画書などでも、同じことだろう。文章に対する気の使い方、という話。


愛染五郎は作品集『センチメンタル』しか読んでいないのだが、あのときに覚えた苦いけれどやさしい読後感を期待していただけに、少々味わいの違うものとなった。いたってストレートで単純なラブコメ……と言えれば楽だったのだが、ストーリー作りの巧い愛染五郎らしさが出ていて、それともまた違う。しっかり「泣き」の部分もある。表向きはラブコメだが、裏にはキャラクターの葛藤や心の変化が読み取れるヒントを散りばめてくれている。全10話でしっかりまとめた良作。


なにより全体を通して安定して読める。絵も丁寧でキャッチーだし、ふにふにとした体のヒロイン・楓も好みにハマれば可愛くて仕方ないだろう。楓が方言(宮城のあたり?)というのも、萌える人は萌える(私は好きです)。愛染五郎のマンガ家としての基礎的な能力の高さが今作でよくわかったので、私としては、また『センチメンタル』のようなストーリーも読みたいのが本音。

「次はもうちょっとエロい漫画描きたいです」
と、あとがきで書いているが、たしかにそれも見たい。いっそ成人指定の黄色いマーク付きで出してくれたら即買いなのだが、どこかで描かせてあげられないものか。個人的趣向でいえば、愛染五郎の描く女の子が毎度毎度ツボすぎて困るので。