『臨死!!江古田ちゃん』『性別が、ない!』




瀧波ユカリ臨死!!江古田ちゃん』(3)
待望の第3巻。
相変わらずの江古田ちゃん節全開で安心して楽しめる。「非正規雇用者労働者をなめんな!!」と心で叫ぶシーンからも察するに、このマンガは社会にぼんやりとある欺瞞とか矛盾とかを、鋭くちくちくと、時には大胆に、炙り出しているような気がしてならない。社会風刺な面も実録マンガのような面もあって、実に面白い。
江古田ちゃんがどうして幸せになれないのか(そもそも江古田ちゃんにとっての幸せってなんだろう?)を考えると、何か漠然とある王道や正義を信じているように見える。江古田ちゃんは妙に真面目なのだ。だから、付き合ったら付き合ったで、きっとこの人は普通に落ち着けるはずなのだ。ところが「落ち着く」ということを良しとしない(できない)心境がどこかにあるので、落ち着けない。落ち着いてみないとわからないことがきっとあるはずでも、踏み出せないし、踏み出さない。その不器用さ加減(自分にも世間にも)が、江古田ちゃんを形作っているのかもしれない……なんてぐだぐだ考えるのは違うよな気がしてきたにゃー。
ただ、毎回最後の「隣に男が寝ていても江古田ちゃんだけが身を起こして自問するシーン」というお決まりのネタに、たとえようのない寂寥感があるのは確かだ。今巻は加えて「出産イメトレで産んだ子に質問」というネタがあり、このネタが、実に小説的であると思った。少し前に芥川賞候補になった松井雪子アウラアウラ』を思い起こさせるような、気持ちの悪さと寂しさがある。今まで恋愛に偏向してきた江古田ちゃんが、さらに一歩進んだ出産に対して触れただけで、これほど「痛さ」が如実になるとは思わなかった。これからの広がりを感じる一本だった。4巻がもう待ち遠しい。


新井祥『性別が、ない!』(4)
インターセックス半陰陽)の作者によるセクシャルを扱うマンガ。暗さを感じさせない明るい話作りに好感が持てる。ただ、この手のマンガの宿命なのか、如実に進むネタ切れ感(勝手に『ふたりエッチ』的進行、とか名づけてみる)あるにしても、読むたびに発見があるマンガでもあるので、長寿シリーズになる可能性は秘めている。最近の若者の守備範囲の広がり(多様性の認可)に作者は驚いていたが、たしかに私も驚くべきことだと思った。たとえば、テレビで若い男の子を女装させて企画のメインに据えて放送しているテレビ番組があったが、アレも若い人に「女装」というものが受け入れられる土壌があるからこそ放送できるものだ。私は「女装」にも「男装」にも抵抗はないが、たとえばこれから何かものを書くあるいは創作するというときに、今までのセクシャル的な価値観では通用しない部分があるのかもしれない、ということを自覚しなくてはいけないなぁ……と考えさせられたのである。そして、これから卒業制作で取り組もうと考えている作品にも、そのテーマが出てくる箇所があるので、参考になった。もう一度、1巻から読み返してみようかと思っている。