山羊たちは踊って笑って誘いながら道をふさいだ。ぎゃー。




神楽坂セッションハウスで、コンドルズの近藤良平が主催する「リンゴ企画」の公演『あの山羊たちが道をふさいだパート2』を見た。21時45分から、という開演時間でも100人近い集客があり、近藤良平への期待が感じられた……と、書きながら、私、近藤良平の存在を今日まで知らなかったのだが、動きと舞台と笑顔を見て、すぐに好きになってしまった。


出演者は近藤良平やすでに別の活動を行っているダンサーの他に、オーディションによって選ばれた14名。どうにも全員が「近藤良平一座」みたいに見えたのは、稽古のなせる業か、それともやはり、近藤良平の目がオーディションを含めて行き届いているからなのかもしれない。


まるで近藤良平の頭の中のキッチュで愉快なおもちゃ箱をひっくり返したような舞台だった。わずか1時間強の公演時間で、数分の作品が休むことなく上演されていく。全員で唄いながら踊ったり、ひとりで赤ちゃんのコスプレをしてみせたり、いきなりお客さんを巻き込んでしまったり……とにかく忙しい。そのどれもが面白い。当てはまるか少し自信がないのだけれど、コントでいうラーメンズを、音楽とダンス方面に特化させていくとこういう舞台になるのではないかな、と、思った。


それぞれひとつひとつに解釈を考えるのも面白かったのだが、何より全体を通して笑ってしまう箇所が多く、また観客も同様に笑いをこらえられず、それは先月見たイデビアン・クルー『排気口』とはまた違った体験だった。『あの山羊たちが〜』も狙った笑いであるにも関わらず、なぜか素直に笑うことができてしまう。なぜかと考えて、たどり着いたことを思うままに書いてみる。


ふたつの違いは「笑いの提供の仕方」にあるのではないか。
『排気口』ではそれまでシリアスだったり不条理だったりというのはあれど踊りを重視している途中で、ぽんと笑いどころを置いていくようなところがあった。それはそれで面白いが、見ている目と頭は踊りや舞台の解釈に傾いているので、うまく笑えない。ところが『あの山羊たちが〜』は構えることなく連続的に笑いどころを投げていく。『排気口』が山登りの途中でキレイな花を見つけるようだとすれば、『あの山羊たちが〜』は打ち寄せる波なのだ。だから私(たち)は素直に、その波に足を入れて楽しむことができる。泳いでしまったっていい。その素直さが、笑いのハードルを下げる。


しかしながら観劇の後に頭を使いたくなるのは『排気口』の方であったりもする。これはなかなか難しい問題だ。『あの山羊たちが〜』が決して劣っているというのではなく、それほど深い解釈と推察を求めていないように思えるからかもしれない。ただ「目の前でとても面白いことが行われている」ということに満足してしまうようなことがある。しかしこの満足感も変えがたいもので、どちらも舞台としては正しいものだろう。

朝から働くか遊んで、早めにご飯とちょっとお酒を飲んで、21時45分からこんな楽しい舞台を見て、語り合いながら眠りについていく、という一日は、とても恵まれたように思える。生活の中に突然現れた気持ちのよい砂浜と海、それが神楽坂セッションハウスにあり、近藤良平という太陽がまぶしく照らして私(たち)の肌を焼く。この快感はなかなかに心地よいものだった。