ずっと行きたかった吉行淳之介文学館。




8月後半は千葉県某所にこもって卒業制作の小説を執筆していた。成果はそこそこ。自分がなかなかに寂しがりやであることを自覚したりもした。その後、館山で大学の講義合宿。エッセイの書き方を習う。これは実りがあった。話したことのない後輩たちとも知り合えた。
それらを終えて9月になり、数日のらりくらりとやっているうちに、大好きになった『SEX and the CITY』はLaLaTVで最終回を迎え、ようやく日常に身体が戻ってきた。たぶん。



そんな折、静岡県掛川市にある吉行淳之介文学館を訪れた。ずっと行きたかったところなのだが、機会と決心に恵まれなかった。ガソリン高騰にもめげず、車を走らせること数時間。茶畑の広がる山を登っていくと、そろそろ季節から外れる蝉の鳴き声にも動じず、そこだけが静寂を保っているような白く気品ある文学館があった。


愛用の机や道具、生原稿や数多くの写真、そして直筆の手紙……すべてから吉行淳之介という作家の匂いと生き方に触れられる場所だった。関係としては事実婚であった宮城まり子が「誰にも相談せずにここをつくった」らしい。写真に添えられたコメントや物の配置に宮城まり子の隅々まで行き届く愛を感じた、などと言ったらチープすぎてしまうけれど、私は深く感銘し、感動したのだった。


心の師匠たる吉行淳之介に、少しでも、一歩でも、近づくことができた思いがある。これからはさらに深く作品に寄り添えるような気がしている。不思議なもので、ただ愛用品や直筆のものを見ただけなのに、その人を今までよりも知れたように感じる。物や字には、何かが宿っているとしか思えない。私も手紙を書いてみたくなった。誰かに宛てて、直筆で、愛用の道具で。それにはまだ、年齢が浅すぎるかもしれない……それでもパソコンだけでない「手で書く」という基本的なことに立ち返ってみようという気持ちが強い。



綴られた愛の言葉がこれほど胸を打つなんて知らなかった。
そして「愛してる」と言わない強さを、知った。