神保町「TEA HOUSE TAKANO」




所用を済ませた後、高校の後輩と待ち合わせた。一緒に、招待された観劇へ行くためだった。時刻はもうすぐ16時になろうかとしていた。
まだ開演時間には早いということで、神保町で時間をつぶすことにした。どこかいい店はないか、と尋ねると、大学がこの近辺にある後輩は「TEA HOUSE TAKANO」へと私を案内した。地下への階段を降りていくと、大きなガラス窓に年配の方から若いカップルまで、様々な人が見えた。広い客層の登場人物たちがまるで映画の中のワンシーンであるかのようにお茶を飲んでいるような……。
入ってみると、その私の思いはすっと消え、そこは単なる喫茶店へと戻った。明るい店内は自由席で、適当なところへ腰掛けると、ほどなくお水とメニューが運ばれてきた。店員の愛想は、それほどよくなかった。構うところではないが。
ダージリンとスコーンを頼んだ。値段は忘れてしまった。
私は珈琲を好んで飲むが、紅茶にはどうにも疎い。味のよしあし、香りのよしあしはなんとなくわかるのだが、大きな違いに気づけないほど、紅茶の体験が乏しいのだ。だから、後輩の薦めるままに頼んでしまったのが実態である。スコーンなど、生まれてこの方、数回食べたことがあるかないか。
ところが、このスコーンが素晴らしかった。さくさくの生地は、口に入れてもぺたぺたとならず、食べ終えるまで食感をキープし続ける。豊かなバター風味とジャムの相性も何とも言えず、これなら毎日でも食べたい、と思ってしまった。紅茶との相性はあえて書く必要はないだろう。
しかし、たしかにスコーンを味わうなら、珈琲より紅茶だ。珈琲は口の中に残る味を上から包み込むのに対し、紅茶は下から持ち上げるようなところがある。このスコーンの風味は、下から持ち上げたほうが断然映える。これからは紅茶にも目を向けて、今まで珈琲を飲んでいたところで、紅茶も視野に入れられるようになっていきたいものである。