吉祥寺「海鮮処 櫂」




遠出する予定が、発案者の友人が当日になって熱を出し、お流れになってしまった。私は運転係だったので車で行ったのだが、結局、集合場所にいた恋人を連れて帰った。ガソリンが高い昨今、使ったのは少量とはいえ悔しい気持ちが残った。車を置いて、ぶらぶらと、吉祥寺へ足を向けた。
歩いていると、突然に謎の胃痛に苦しめられた。はじめは我慢できるほどだったのが、次第に痛みを増し、立っているのも辛くなるほどに。薬屋で液状の胃腸薬を買って飲み、喫茶店で30分ほど寝かせてもらう。すると、先ほどよりは胃痛も和らいでいた。時刻は14時半を過ぎていた。喫茶店を出て、遅めの昼食をとることにした。
はじめは「スパ吉」へ行こうとしたのだが、行列ができていたためにあっさり断念。そこでパッと思いついたのが、「海鮮処 櫂」だった。前々から行ってみたかったのだ。不調の胃のことも考え、あっさりしたものが食べたかったのもある。幸い、待つことなく座ることができた。店内へ入ると、魚屋さんの匂いがして、なんだか嬉しくなった。変だろうか。変かもしれない。
私はネギトロ月見丼780円をいただいた。
彼女は二色丼(サーモンとネギトロ)680円にした。
丼ものにはサービスでまぐろのスープがつく。まぐろの小さな切り身(部位は……申し訳ないがわからない)がころころと入っていて、食感がまるで鶏肉のようだった。あっさりした塩味で、サービスとはいえ、かなりうまい。これをご飯にかけて食べれば立派にスープご飯として成立するのではないかと思った。というより、正直、それが食べたかった。
程なくしてネギトロ月見丼登場。ピンクのガリと錦糸玉子が添えられたネギトロ丼の上に、大きな半熟卵がぽとん。別の皿で出されたわさびをつけ、醤油をかけ、半熟卵を割って、混ぜて食べてみた。半熟卵の味でネギトロの風味が消えるのでは、と心配したが、むしろ旨味を引き立たせ、濃厚な味になった。以前、香川で半熟卵の天ぷらがうどんに合う話をした際に提唱した「半熟卵万能説」が、またしても確信に近づいた気持ちだった。半熟卵は素晴らしいのである。
二色丼は錦糸玉子、ネギトロ、サーモンの切り身四切れほどがご飯を三等分するように乗っていた。見栄えもなかなか。少量食べさせてもらったが、サーモンは新鮮さがあるのか水っぽさもなく、なかなかいけた。
ただご飯の量が、男の私では少なめに感じた。彼女はお腹いっぱいと言ったが……食が細いのであまり当てにはならない。若干の物足りなさはあったものの、ふらりと入ってガガッと丼を食べてさらっと出て行く、なんていうスタイルがよさそうだ。
そうそう、ここはおつまみメニューが充実していた。「自家製まぐろ餃子」といった変わり種もあったが、海鮮処と銘打つのだから、おいしい魚介類にありつけそうだ。酒も、芋焼酎の「七夕くろ」が一杯370円と(もちろん量にもよるが)それほどの値段ではないし、むしろ良心的な値段かもしれない。酒を飲むのもよさそうだ。そのときも、やはり、ふらっと入って……が向いていそうな気がする。