将吉『コスチューム!』




第3回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。
なんで家にあったのかイマイチ覚えていないのだけど、未読だったので読んでみた。
風呂でぼんやり読むにはいい感じだったのもあって。



コスプレイヤーの女の子を主人公に置き、ネットのアクセス稼ぎやらロフトプラスワンでのトークショーやらの「ネット→リアル文化」とでも言うべきものも頻出し、時代によって生み出されたともいえる作品。しかしそれらが物語上重要なキーになっているわけではなく、あくまで物語を動かすコマとなっているように感じるのが惜しいところか。
親友の死という事件は案外サラリと乗り越える主人公だが、自分が盗撮されていると知ったときには激昂してカメラをぐちゃぐちゃに潰してしまう。そんなところも、見方によっては、どこか自意識過剰な部分を持っているコスプレイヤーの性質らしいともいえるのかもしれない。親友だと思っていた人間の死は、主人公の中ではひとりの女性が死んだというより、コスプレイヤーが居なくなった(引退した、のが近いか?)という感覚だったのかもしれない……。
って、ええー。マジで?それでいいの?
いくらなんでも軽すぎるだろ親友の死!と、思いましたが、これを書きながら、そうかその死というものさえ彼女にとってはコマでしかない、物語(コスプレイヤーとしての自分)を進めるものにしかならないというのか?リアルの自分とコスプレイヤーの自分との乖離が進行していったところに、盗撮という強引な手法でリアルとバーチャルをくっつけようとしたことで、はじめて彼女に猛烈な戸惑いが起きた、とか。こう思うとそれはそれで、面白いかも。いいじゃんいいじゃん、これでいこう。
そんなわけで最後まで引っ張ってた割に着地点のない心霊写真云々の設定とか、軽すぎる親友の死とか、結局そんな恋愛オチなんですかーへぇー(でも『エピローグ(偽)』としてあるのがニクイ)……みたいな部分もあったけれど、まぁ楽しく読めました。
この人、昨日の桑島由一と同じで、言葉の選び方が妙なところがあるんだなぁ。



「野球は九回裏ツーアウトから。じゃあ、それまでやっていた『野球みたいなもの』は、なんだったんだ。(第6章タイトル)


小さい頃に何度か近所の変なお兄さんに小脇に抱えてテイクアウトされそうになったというのも納得できる。(P24)


一粒三百mのキャラメルをダースで鉄鍋にぶち込んでことことじっくり煮込んだみたいなリップサービス(P36)


などなど。
後半に行くにつれて内容も口調もマジメになってしまうのだけど、もうそんなんを排除してドドンと面白いところだけ突っ切ってってくれたらいいのかなぁ、なんてのも思う。こういうところが「うまいなー」とニヤニヤさせるだけに残念というか。
デビュー作だから粗があるのは当たり前。
違うのも読んでみたいところだけど、今は違う本を読んでいるので、いずれまた。